循環器内科の病気
循環器内科の病気
当院では、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や不整脈、心臓弁膜症、心不全、深部静脈血栓症・肺塞栓症、閉塞性動脈硬化症、急性大動脈解離など、幅広い疾患の診断・治療を行います。また、大学病院等の高次医療機関にて冠動脈ステント治療、冠動脈バイパス術、カテーテルアブレーション、人工弁置換術、弁形成術、人工血管置換術・ステントグラフト内挿術など、各種心臓血管の手術を受けた患者様についても、当院にて外来フォロー対応が可能です。健康診断で心雑音や心電図異常を指摘された方も、ぜひご相談ください。
心筋に血液を供給する冠動脈が閉塞し、心筋が壊死に陥る病態です。極めて危険な疾患であり、発症した瞬間に4分の1の方が致死性不整脈によってその場で生命を落としてしまいます。運良く病院に運ばれて、適切な治療を受けることが出来たとしても、不整脈や心不全(ポンプ失調)、心破裂などの合併症を生じることで、1割弱の方が不幸な経過をたどります。

急性心筋梗塞では、冠動脈が閉塞してからおよそ3時間で大部分の心筋が壊死に陥ることが分かっています。心筋には再生能力がないため、冠動脈の血流を回復させるための処置(緊急カテーテル検査・治療)を、迅速かつ的確に実施することが極めて重要です。そのために患者さんが取るべき行動は、「10分以上続く突然の胸痛を自覚したら、とにかく119番通報」です。救急隊は、緊急カテーテル検査・治療を実施可能な近隣の病院の情報を常に把握していますから、対応をお願いしてしまうのが最も合理的です。「大したことがなかったら恥ずかしい」、「救急車のサイレンが近所迷惑になる」などと考える必要は全くありません。
急性心筋梗塞は、典型的な胸痛症状や心電図変化のみで比較的容易に診断できる場合が多いですが、心エコーや、心筋トロポニンTなどの採血検査を行うことで、診断の精度を高めることが出来ます。これらの検査(心電図、心エコー、心筋トロポニンTの採血)は、当院でも迅速に実施できる体制を整えております。当院にて急性心筋梗塞と診断した患者さんに対しては、初期治療と救急車の手配を行った上で、速やかに近隣の高次医療機関にご紹介します。
心臓は肺と全身に血液を送り出す筋肉でできたポンプであり、冠動脈と呼ばれる血管から血液(酸素・栄養)の供給を受けることで、絶え間なく動き続けています。この冠動脈が動脈硬化の影響を受けて狭窄すると、心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が供給されない状態となり、狭心症を発症します。典型的には、「朝に家を出て寒い風に当たりながら歩いていると、胸が苦しくなって、5分ほど休むと良くなることを繰り返す」といった症状を訴える方が多いです。
この症状は、体を動かすなどして心臓への負担が増えたときなどに、心筋への血流が相対的に不足し、酸欠状態に陥ることが原因で生じます。立ち止まってしばらく休むと、心臓への負担が和らぐために症状が治まります。なお、糖尿病を合併している患者さんや、ご高齢の方や女性の場合、息切れ程度の症状しか自覚せず、はっきりとした胸部症状を感じない方もいるので注意が必要です。
狭心症の診断のためには、まず外来で運動負荷心電図検査、冠動脈CT・MRI検査などを行います。ホルター心電図(24時間心電図)や、血管拡張薬(ニトログリセリン)の効果を確認することも有用です。これらの検査で狭心症の疑いが強まれば、入院の上で冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)を行います。

狭心症の治療は、① 胸部症状を和らげる薬剤を用いたり、② 狭窄した部分をバルーンやステント(網目状の金属の筒)で広げるカテーテル手術、および③ 狭窄した部分より先に別の血管をつなげる手術(冠動脈バイパス手術)、などがあります。患者さんの状態や冠動脈造影検査の結果を踏まえ、患者さんと相談しながら治療法を決定します。
狭くなった冠動脈を広げる治療はあくまでも対処療法であり、既に進んでしまった動脈硬化そのものを元に戻す方法はありません。動脈硬化の進行を少しでも遅らせるためには、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの各生活習慣病に対する治療を根気よく続け、確実に禁煙することが重要です。
動脈硬化によって血管が狭くなる「労作性狭心症」とは異なり、冠動脈が一時的に異常な痙攣(けいれん)を起こして収縮し、血流が途絶えてしまうことで発症する病態です。血管の内腔自体には動脈硬化による狭窄がない場合でも起こり得ます。欧米人に比べて日本人に多いことが知られており、「夜間から早朝にかけての安静時」に発作が起こることが最大の特徴です。
典型的には、「夜寝ている時や、明け方にトイレに立った時などに、胸が締め付けられるような苦しさが生じ、数分から15分程度続く」といった症状を訴える方が多いです。日中の運動や階段昇降では症状が出ないにもかかわらず、リラックスしている時や就寝中に発作が起こるため、患者さんは大きな不安を感じます。発作の誘因としては、喫煙が最大のリスク因子であるほか、飲酒(特にお酒が抜けてくる時間帯)、寒暖差、精神的ストレスなどが挙げられます。
診断において難しい点は、発作が起きていない来院時の心電図や心エコー検査では「異常なし」と判定されてしまうことが多い点です。そのため当院では、詳細な問診に加え、ホルター心電図(24時間心電図)などの検査や、発作時に薬(ニトログリセリン)を用いて頂くなどして、診断につなげます。場合によっては、連携する高次医療機関にて、カテーテル検査(薬剤で痙攣を誘発させる試験)による確定診断を依頼することもあります。
治療は、血管の痙攣を抑える「カルシウム拮抗薬」という飲み薬が有効であり、特効薬となります。多くの患者さんは、このお薬を継続することで発作を予防し、健康な人と変わらない生活を送ることができます。また、発作時にはニトログリセリン(血管拡張薬)が速やかに効きます。ただし、薬物療法と同じくらい重要なのが「禁煙」です。タバコは血管の痙攣を強力に誘発するため、治療のためには確実な禁煙が不可欠です(受動喫煙もリスクです)。放置すると心筋梗塞や突然死の原因となることもあるため、「明け方の胸痛」などの心当たりがある場合は、早めにご相談ください。
心臓は左右の心房(サブポンプ)と心室(メインポンプ)の4つの部屋から構成され、心房 → 心室の順に規則正しく、1分間に約70回の収縮と拡張を繰り返すことで、全身と肺に絶え間なく血液を供給し続けています。心房細動になると、サブポンプである心房の収縮活動に異常が生じ、1分間に300回程度、無秩序に細かく震えてしまう状態となります。初めのうちは発作性に出現し、数秒~数日で停止しますが、病態が進行すると次第に持続時間や頻度が増し、持続性、永続性となっていきます。
心房細動は、心臓弁膜症や甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、高血圧症などが原因となって発症することもありますが、特に原因がない方も珍しくありません。高齢になるほど発症しやすくなることが分かっており、心臓の老化現象の一種と言えるかもしれません。診断は、心電図検査、ホルター心電図検査などによって行います。
心房細動によってメインポンプである心室まで止まってしまうようなことはまずありませんが、脈が不規則になり、多くの場合は頻脈になります。強い動悸感により、発作のたびに救急車のお世話にならざるを得ない患者さんもいらっしゃいます。また、心房細動はしばしば心不全や脳梗塞などの合併症を生じることがあり、これは健康や寿命に影響する最大の問題点となります。心房細動の治療の目的は、苦痛を伴う動悸症状を緩和し、合併症を最大限予防することにあります。
心房細動の治療には、様々な種類の薬物や、電気的除細動、カテーテルアブレーションなど、多くの武器が用意されています。患者さんごとに、病気の進行段階や、動悸や心不全症状の有無、脳梗塞の発症リスク、ご年齢や全身状態、ご希望などを踏まえつつ、最適な治療戦略を立てることが重要です。
心臓は通常、右心房の天辺にある「洞結節」という司令塔からの電気信号によって規則正しく動いています。上室期外収縮は、この司令塔以外の場所から、予定よりも早いタイミングで電気信号が発生してしまう不整脈です。健康診断の心電図などで最も頻繁に見つかる不整脈の一つであり、心臓に病気がない健康な方にもよく認められます。
自覚症状としては、「脈が飛ぶ」「一瞬ドキッとする」「喉の奥が詰まるような感じがする」「心臓がしゃっくりを打った」「咳をしたい感覚がある」などと訴える方が多いです。一方、全く無症状で検診時に初めて指摘されることも少なくありません。この不整脈は、睡眠不足、疲労、ストレス、カフェインやアルコールの摂取などが誘因となって出現しやすくなるため、まずは生活習慣を見直すことが対策の第一歩となります。
医学的には、上室期外収縮そのものが直ちに命に関わることはほとんどなく、「良性」の不整脈と判断されるケースが大半です。そのため、心臓超音波検査などで心臓の動きに問題がないことが確認できれば、特別な治療を行わずに経過観察となることが一般的です。ただし、症状が強く日常生活に支障がある場合は、心拍を安定させる薬剤を使用することもあります。
注意点として、上室期外収縮が頻発する方の中には、将来的に「心房細動」へ移行し、脳梗塞のリスクとなるケースがあります。そのため、「良性だから放置してよい」と自己判断せず、定期的に検診等で心電図検査を受け、不整脈の頻度や性質に変化がないかを確認していくことが大切です。
心臓の下側の部屋である「心室」から、正常な脈のリズムよりも早いタイミングで異常な電気信号が発生する不整脈です。上室期外収縮と同様、「脈が飛ぶ」「一瞬ドキッとする」などと訴える方が多いです。健康な方でも認められますが、狭心症、心筋梗塞、心筋症、弁膜症などの心臓病が背景にあって出現することもあるため、慎重な評価が必要です。
診断においては、「心臓に別の病気が隠れていないか」と「不整脈の頻度」の2点を確認することが極めて重要です。当院では、心臓超音波検査を行って心臓のポンプ機能や弁の状態を詳しく調べるほか、ホルター心電図(24時間心電図)を用いて、1日に何回くらいの不整脈が出ているか、連発(続けて出ること)はないか等を解析します。
検査の結果、心臓の機能が正常で、不整脈の回数が少ない場合は、基本的に治療の必要はなく、経過観察となります。睡眠不足やストレスの解消、禁煙などで改善することも多いです。一方で、1日の総心拍数の10〜15%以上を占めるほど頻発している場合は、たとえ自覚症状がなくとも心臓の機能が低下してしまう(頻脈誘発性心筋症)リスクがあるため、薬物療法やカテーテルアブレーション治療を検討します。また、心臓の機能が良好で、不整脈が頻発していない場合であっても、不整脈に伴って強い自覚症状がある場合には薬物療法を行うことがあります。
もし、動悸に伴って「気が遠くなる(失神)」「ふらつき」「胸痛」などを自覚した場合は、危険な不整脈の前兆である可能性があります。その際は様子を見ることなく、速やかに医療機関を受診してください。

正常な脈拍(1分間に70拍前後)から、突如としてスイッチが入ったように脈が速くなり、1分間に150〜200拍以上の頻脈が続く不整脈です。心臓の中に、電気信号が空回りしてしまう異常な回路(ショート回路)が生まれつき存在することが主な原因です。心臓に病気がない若い方からご高齢の方まで、幅広い年代で発症する可能性があります。
最大の特徴は、「始まりと終わりが唐突である」ことです。何の前触れもなく突然激しい動悸が始まり、数分から数時間続いた後、まるでスイッチが切れたように突然止まって元の脈拍に戻ります。発作中は、強い動悸、胸の不快感、冷や汗、めまいなどを伴い、非常に強い不安感を覚える方が多いものの、直ちに生命に関わるような事態になることは稀です。
診断の決定打は「発作中の心電図」を記録することです。しかし、患者さんがクリニックを受診した時には既に発作が止まっていることが多く、その場合の安静時心電図は「異常なし」となってしまうことが診断を難しくします。そのため当院では、症状の特徴を詳しく伺うとともに、ホルター心電図(最長5日間記録)などを用いて、発作時の波形を捉えることに努めます。
治療法は確立されています。発作時には、息をこらえる(バルサルバ手技)や冷たい水を飲むことで迷走神経を刺激し、発作を止められる場合があります。頻度が多い場合は、「抗不整脈薬」を使用しますが、あくまで発作を予防・停止させる対処療法であり、根本的な治療ではありません。この不整脈を根本から治すためには、「カテーテルアブレーション治療(手術)」が極めて有効です。原因となっている異常な回路を焼き切ることで、90%以上の確率で完治が期待でき、薬を飲み続ける必要もなくなります(診断後に、治療が可能な医療機関にご紹介します)。長年、突然の動悸に悩まされている方は、根治が可能な病気ですので、ぜひ一度ご相談ください。
心臓の下側の部屋である「心室」から、異常な電気信号が連続して発生し、脈が極端に速くなる(1分間に100拍以上、多くは150拍以上)不整脈です。心臓が痙攣したような状態となり、ポンプとしての役割を果たせなくなるため、全身に血液を送り出せなくなります。そのため、血圧が急激に低下し、意識消失や突然死につながるリスクがある、極めて危険な「致死的」な不整脈の一つです。
症状は、発作の持続時間や心臓の状態によって異なります。数秒で自然に止まる場合(非持続性心室頻拍)は、「強い動悸」や「一瞬気が遠くなる」程度で済むこともありますが、発作が長く続く場合(持続性心室頻拍)は、めまい、冷や汗、失神(意識を失う)、呼吸困難などが生じます。最悪の場合、心臓が完全に停止する「心室細動」へと移行してしまう恐れがあるため、一刻を争う対応が必要です。
この不整脈は、心筋梗塞や、心筋症、心不全といった心臓の病気をお持ちの方に発症しやすい傾向があります。一方で、心臓の構造には全く異常がない若い方に突然発症することもあり、これは「特発性心室頻拍」と呼ばれます。診断のためには、発作時の心電図記録が必須ですが、普段の心電図や心臓超音波検査、ホルター心電図などを用いて、心臓に基礎疾患が隠れていないかを詳しく調べることが治療方針の決定に不可欠です。
治療は、不整脈を抑える薬(抗不整脈薬)の内服や、異常な電気信号の発生源をカテーテルで焼灼する「カテーテルアブレーション治療」が行われます。また、突然死のリスクが高いと判断された場合には、体内に植え込んだ機械が自動的に電気ショックを行って心臓の動きを正常に戻す「植込み型除細動器(ICD)」の手術が必要となることもあります。もし、動悸とともに「意識が遠のく感じ」や「目の前が暗くなる感じ」を覚えた場合は、この不整脈の可能性があります。様子を見ずに、直ちに医療機関を受診するか、意識を失いそうな場合は躊躇なく救急車を呼んでください。
心臓は、上の部屋(心房)から下の部屋(心室)へと電気信号が流れることで、規則正しく収縮し、血液を全身に送り出しています。房室ブロックは、この心房と心室のつなぎ目にある「房室結節」という電気信号の中継点で、電気の流れが悪くなったり、完全に途絶えてしまったりする病気です。加齢による変性が主な原因ですが、心筋梗塞や心筋症、あるいは薬剤の影響で生じることもあります。
この病気は、重症度によって大きく3つの段階(1度、2度、3度)に分けられ、それぞれ症状や対応が全く異なります。「1度」は電気の通りが少し遅れるだけで、脈は飛ばないため、自覚症状はほとんどなく治療の必要もありません。「2度」は時々信号が途切れて脈が飛ぶ状態で、めまいやふらつきを感じることがあります。「3度(完全房室ブロック)」は信号が完全に遮断された状態で、心臓が極端にゆっくり打つ(徐脈)か、一時的に停止してしまうため、失神や心不全を引き起こす危険な状態です。
診断には心電図検査が不可欠です。健康診断の心電図で「1度房室ブロック」を指摘されただけであれば、過度な心配は不要です。一方で、めまいや失神などの症状がある場合は、当院にてホルター心電図(長時間心電図)を行い、「日常生活の中でどれくらい脈が遅くなっているか」「心臓が止まっている時間はないか」を詳細に評価します。
治療方針は重症度によって決まります。軽度であれば経過観察となりますが、脈が極端に遅くなり脳への血流が不足する場合(めまい、失神がある場合)や、心臓が数秒間停止してしまうような重症例では、心臓のリズムを補助する機械を植え込む「ペースメーカー手術」が必要となります。特に、「急に目の前が暗くなる」「気を失って倒れた」という経験がある方は、重度の房室ブロックが隠れている可能性があります。命に関わる心事故につながる恐れがありますので、放置せずに速やかにご相談ください。
心臓から全身へ血液を送り出す「出口」にある「大動脈弁」が、動脈硬化や加齢の影響で石灰化して硬くなり、開きが悪くなってしまう病気です。心臓は、狭い隙間のようになった大動脈弁(得てして、開口面積は1平方センチメートル未満となります)から全身に血液を届けるために、通常よりも強い力でポンプを動かし続けなければなりません。この過酷な負荷が長く続くと、心臓の筋肉が分厚くなったり(心肥大)、最終的には疲れ果てて動きが悪くなったり(心不全)してしまいます。近年、社会の高齢化に伴い患者数が急増している病気の一つです。
この病気の最大の特徴であり恐ろしい点は、「重症化するまで長期間にわたり無症状である」ことです。しかし、一度症状が出現すると、そこから急速に病状が悪化し、生命に関わるリスクが高まることが知られています。注意すべき3大症状は、① 坂道や階段での息切れ・呼吸困難(心不全)、② 胸の締め付けられるような痛み(狭心症)、③ 目の前が暗くなる・気を失う(失神)です。これらの症状が出始めた場合、適切な治療を行わないと、数年以内で命を落とす可能性が高いというデータもあり、一刻を争う状態と言えます。
早期発見のきっかけとして最も重要なのが、医師による「聴診」です。狭くなった弁を血液が無理やり通る際に、「シュー、シュー」という特徴的な心雑音が聞こえるため、かかりつけ医での定期的な診察や健診で見つかることが多いです。疑われた場合は、当院にて心臓超音波検査(心エコー)を行い、弁の面積や血液の流れの速さを計測することで、重症度を正確に診断します。

残念ながら、一度硬くなってしまった弁を薬で元に戻すことはできません。重症と診断され、かつ症状がある場合は、狭くなった弁を人工弁に取り替える治療が必要です。従来は胸を開く「開胸手術」が一般的でしたが、近年では、太ももの血管などからカテーテルを通して人工弁を留置する「TAVI(タビ、と読みます)」という治療法が普及しており、ご高齢の方や体力に不安のある方でも、体への負担を抑えて治療を受けられるようになっています。「歳のせいだから息が切れるのは仕方ない」と諦めず、聴診で雑音を指摘されたり、以前より動けなくなったと感じたりした場合は、早めにご相談ください。
心臓の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」という逆流防止弁が、何らかの原因で完全に閉じなくなり、全身に送り出されるべき血液の一部が逆戻りしてしまう(逆流する)病気です。心臓は、逆流して戻ってきた血液を再び送り出すために余分な仕事を強いられることになります。原因としては、弁を支えている「腱索(けんさく)」という糸が切れて弁がひっくり返ってしまう(僧帽弁逸脱症)場合や、心筋梗塞や心不全によって心臓自体が大きくなり、弁の枠組みが広がってしまう場合などがあります。
初期のうちは無症状で経過することが多いですが、逆流の量が増えてくると、心臓への負担が限界を超え、心不全の症状が出現します。典型的な症状は、運動時の息切れや動悸、足のむくみなどです。さらに重症化すると、肺に水がたまってしまうため、「夜、布団に横になって寝ると息が苦しくて眠れない(体を起こすと楽になる)」という状態(起座呼吸)になることがあり、これは心不全がかなり進行している危険なサインです。
診断の入り口となるのは、医師による「聴診」です。血液が隙間から逆流する際に生じる「ザッ、ザッ」という特有の心雑音が聞こえるため、これを確認した上で心臓超音波検査(心エコー)を行います。心エコーでは、逆流の量や原因、心臓のポンプ機能への影響などを詳細に評価し、手術が必要なタイミングを見極めます。
軽度〜中等度であれば、心臓の負担を減らす薬(利尿薬や血管拡張薬)で経過を見ることができますが、根本的に「壊れた扉」を薬で治すことはできません。重症で、かつ心臓の機能が低下し始めた場合などは手術が必要です。手術には、ご自身の弁を修理して形成する「弁形成術」と、人工弁に取り替える「弁置換術」があります。また、近年ではご高齢で体への負担が大きい手術が難しい方に対して、カテーテルを使って弁をクリップでつまんで逆流を減らす「MitraClip(マイトラクリップ)」という治療法も選択できるようになっています。健康診断で心雑音を指摘された方や、最近息切れを感じやすくなった方は、放置せずに一度診察・精査を受けることをお勧めします。
心臓は、「心筋」という筋肉の塊が収縮することでポンプとして働いており、その外側は「心膜」という薄い膜の袋で包まれています。これらの組織にウイルスや細菌が感染したり、免疫の異常が起きたりして炎症が生じる病気が、心膜炎(膜の炎症)と心筋炎(筋肉の炎症)です。しばしば両方が同時に起こることもあります(心筋心膜炎)。原因の多くは風邪のウイルス(コクサッキーウイルス、インフルエンザ、新型コロナウイルスなど)であり、いわば「心臓が風邪を引いてしまった状態」と言えます。
心膜炎の典型的な症状は、鋭い胸の痛みや発熱です。この胸痛には特徴があり、「仰向けに寝ると痛みが強くなり、上半身を起こして前屈みになると楽になる」、「大きく息を吸ったり咳をしたりすると痛む」という傾向があります。一方、心筋炎の症状は多彩で診断が難しいことがあります。軽症であれば、風邪症状の後に続く微熱や体のだるさ、胸の違和感程度で自然に治ることもありますが、炎症が強く心臓の筋肉が破壊されると、ポンプ機能が低下して重度の心不全(息切れ、むくみ)に陥ったり、致死的な不整脈による失神や突然死を招いたりすることもあります。
診断のためには、風邪のような先行症状がなかったかという問診に加え、心電図、胸部レントゲン、心臓超音波検査(心エコー)、および採血検査を行います。特に心筋炎では、壊れた心筋から漏れ出る「トロポニン」という酵素の上昇や、心エコーでの壁運動の低下や心筋浮腫が診断の鍵となります。心膜炎では、心臓と心膜の摩擦音(心膜摩擦音)が聴診されることや、心臓の周りに水(心嚢水)が溜まっている所見が重要です。
治療は、原因や重症度によって異なります。心膜炎の多くは、炎症を抑える鎮痛薬(NSAIDs)やコルヒチンという薬を内服することで、比較的速やかに改善します。心筋炎の場合、特効薬はないため、心臓の負担を減らす対症療法を行いつつ、自身の回復力を待つことが基本となりますが、何よりも重要なのは「安静」です。稀に「劇症型心筋炎」と呼ばれる、数日で急激に心臓が止まってしまうほど重篤化するタイプが存在します。風邪だと思っていたのに、「横になれないほど息が苦しい」「冷や汗が出る」「脈がおかしい」と感じた場合は、躊躇せず救急医療機関を受診してください。
心臓の筋肉(心筋)そのものが変性してしまう病気の総称です。高血圧や弁膜症といった明らかな原因がないにもかかわらず、心筋が異常に分厚くなったり、逆に薄く引き伸ばされてしまったりすることで、心臓のポンプ機能や電気系統に障害が生じます。国の「指定難病」に認定されていたり、遺伝的な要因が関与しているケースも少なくありません。
大きく分けて、代表的な二つのタイプがあります。一つ目は「肥大型心筋症」で、心筋が極端に分厚くなるタイプです。ポンプ機能は保たれることが多いですが、筋肉が厚くなりすぎて内腔が狭くなったり、硬くなって広がりにくくなったりします。若い方の突然死の原因となることもあります。二つ目は「拡張型心筋症」で、心筋がゴムのように薄く伸びて心臓全体が風船のように大きくなってしまうタイプです。収縮する力が著しく低下するため、重度の心不全に至りやすいのが特徴です。
症状はタイプや重症度によって異なりますが、共通して現れるのは「心不全症状」と「不整脈症状」です。初期のうちは無症状で経過することもありますが、進行すると、坂道や階段での息切れ、全身の倦怠感、足のむくみなどが現れます。また、心筋の変性に伴って危険な不整脈が出現しやすく、動悸やめまい、あるいは突然の失神(気を失う)を来すこともあります。
診断の決定打となるのは「心臓超音波検査(心エコー)」です。心筋の厚みや心臓の大きさ、ポンプとしての動きを直接観察することで、どのタイプの心筋症であるかを診断します。また、心電図異常が発見のきっかけになることも多いため、健診で「要精査」と言われた場合は放置しないことが大切です。治療は、病気のタイプと進行度に合わせて行います。心臓を保護する薬(β遮断薬やACE阻害薬など)の内服が基本となりますが、致死的な不整脈のリスクが高い場合は「植込み型除細動器(ICD)」の手術を行ったり、心臓のリズムを整えるペースメーカー治療を行ったりすることもあります。心筋症は、早期に発見して適切な管理を行えば、症状をコントロールして生活を送ることが目指せる病気です。「血縁者に心臓病の方や突然死された方がいる」という場合や、健診で異常を指摘された場合は、一度当院で詳しい検査を受けることをお勧めします。
心臓は、全身と肺に血液を送るための筋肉でできたポンプであり、平均的な体格の健康成人が安静にしているときには、1分間あたり5~6Lの血液を送り出しています。心臓は非常に予備力に優れた臓器であり、激しい運動の際には1分間あたり20Lもの血液を全身に供給することができます。
このような心臓の能力は、様々な疾患や加齢によって徐々に損なわれていきます。能力の低下が中等度までであれば、予備力が低下する程度に留まるため、日常生活を送る上で重大な支障が生じることはあまりありません。しかし、それ以上に心臓の機能が損なわれた状態になると、血流のうっ滞によって体液量が増加し、胸水や肺うっ血による呼吸困難や、下肢浮腫などの心不全症状が出現します。さらに状態が悪化すれば、全身の諸臓器が必要としている血液を十分に供給できなくなり、臓器機能が悪化します。これを低心拍出量症候群と言います。
心不全は、急激に状態が悪化する急性期(急性心不全)と、比較的安定した状態で推移する慢性期(慢性心不全)に大きく分類することができます。
急性心不全の病状は得てして深刻であり、基本的には入院が必要です。適切な治療によって一旦は改善することが殆どですが、残念ながら心不全そのものが完治することはなく、ぶり返すことがあります。また、過労や、水分・塩分の摂りすぎ、風邪、ストレス、薬の飲み忘れなどにより、心不全の症状が悪化したり、再発することもあります。その場合も、適切な治療により再度心不全は改善しますが、このような悪化と改善を繰り返すことにより、心不全はだんだん悪くなり、やがて生命を脅かします。

(日本循環器学会 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017年改定版より引用)
一方、慢性心不全の状態にある患者様については、できる限り安定した状態を維持できるように、外来にて採血や心電図、レントゲン、心エコーなどの検査を定期的に実施し、内服薬の調整等を行いながら経過を観察します。この時期に心臓の機能をさらに悪くしないためには、適切な薬物治療に加えて、禁煙や減塩、節酒、適度な運動が重要です。急性心不全をぶり返さないためには、以上の事項に加えて、過労や水分の過剰摂取を避け、風邪の予防に努めることが大切です。

日頃から高強度の運動やトレーニングを継続的に行っている方にみられる、心臓の生理的な変化(適応)のことです。腕や足の筋肉がトレーニングによって太く大きくなるのと同様に、心臓の筋肉も、運動中の大量の血液需要に応えるために分厚くなったり(心肥大)、心臓の部屋自体が大きくなったり(心拡大)します。特に、マラソン、水泳、自転車競技などの持久力を要するスポーツ選手によく認められます。
最大の特徴は、安静時の脈拍が極端に少なくなる「徐脈」です。スポーツ心臓の方は、心臓が一回の拍動で送り出せる血液の量が多いため、安静時には少ない回数で全身の血流をまかなうことができます。そのため、一般の方の脈拍が1分間に60〜100回程度であるのに対し、スポーツ心臓の方では40回台、時には30回台になることもありますが、これ自体は病気ではなく、高い心機能の証と言えます。通常、自覚症状はありませんが、あまりに脈が遅い場合に軽いめまいを感じることはあります。
医学的に最も重要な点は、このスポーツ心臓が、命に関わる心臓病である「肥大型心筋症」や「拡張型心筋症」と見た目が非常によく似ていることです。特に肥大型心筋症は、若いアスリートの突然死の原因となる疾患ですが、健康診断の心電図やレントゲンだけでは、それが「トレーニングによる良性の変化(スポーツ心臓)」なのか、「病的な変化(心筋症)」なのかを区別することが困難な場合があります。
そのため、学校検診や職場の健診などで「心電図異常」や「心肥大」を指摘された場合は、放置せずに必ず精密検査を受ける必要があります。当院では、心臓超音波検査(心エコー)を用いて心臓の筋肉の厚みや動きを詳細に観察し、さらにホルター心電図(長時間心電図)で危険な不整脈が隠れていないかを確認することで、病的な疾患との鑑別を行います。検診で指摘を受けた際はご相談ください。診断の結果、スポーツ心臓であれば治療の必要はなく、競技を続けても問題ありませんが、年に1回程度の定期チェックをお勧めしています。
足の筋肉の奥深くにある静脈の中に、血の塊(血栓)ができて詰まってしまう病気です。飛行機や車での長時間移動などで発症することから、「エコノミークラス症候群」という別名でも知られています。長時間同じ姿勢で座り続けて足を動かさないことや、脱水状態などが重なり、血液の流れが滞って固まりやすくなることが主な原因ですが、手術後、妊娠中、ピルの服用、あるいは悪性腫瘍(がん)などが背景にあって発症することもあります。
典型的な症状は、「片方の足(ふくらはぎや太もも)」が急にパンパンに腫れ上がり、赤みや熱感、歩行時の痛みを伴うことです。「足がつったような痛み(こむら返り)」と勘違いされることもありますが、数日経っても痛みが引かず、腫れが悪化してくるのが特徴です。左右の足の太さを比べると、明らかに患側が太くなっていることが見て取れます。
この病気が極めて危険な理由は、足にできた血栓が血流に乗って剥がれ落ち、心臓を通って肺の血管に詰まってしまう「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」を引き起こすリスクがあるからです。肺塞栓症を発症すると、突然の激しい呼吸困難や胸痛、失神が生じ、最悪の場合は突然死に至ることもあります。したがって、足の血栓は「ただの足の病気」ではなく、命に関わる病態の前触れとして扱う必要があります。
診断のためには、血液検査で血栓の存在を示唆する「Dダイマー」という値を測定し、下肢静脈エコー検査(超音波検査)で血管内の血栓を視覚的に確認します。当院ではこれらの検査を迅速に実施できる体制を整えています。治療は、血液をサラサラにする「抗凝固薬」の内服が基本となり、血栓の拡大と肺への飛散を防ぎます。もし、「片足だけが急に腫れて痛い」という症状が出た場合、血栓を肺に飛ばしてしまう危険があるため、決して患部を揉んだりマッサージしたりせずに、速やかに当院をご受診ください。
心臓につながる人体で最も太い血管である「大動脈」の内側の壁に、突如として亀裂が入り、そこから壁の中に血液が流れ込むことで、血管が縦方向にメリメリと裂けてしまう病気です。血管の壁が薄くなるため破裂して大出血を起こす危険があるほか、解離が脳や心臓、腎臓などの重要な臓器へ向かう枝分かれを塞いでしまうと、脳梗塞や心筋梗塞などを合併することもあります。循環器疾患の中でも、発症直後から時間単位で死亡率が上昇する、最も緊急性の高い致死的な疾患の一つです。
典型的な症状は、「ある瞬間に突然発症する、引き裂かれるような激烈な胸や背中の痛み」です。解離が広がるにつれて痛みの場所が胸から背中、腰などへと移動していきます。ただし、解離によって脳への血流が遮断された場合は、痛みを訴える前に失神(気絶)や意識障害が最初の症状となることもあるため、注意が必要です。
診断には造影CT検査が必須であり、治療方針は解離が起きている場所によって大きく異なります。心臓に近い「上行大動脈」に解離が及んでいる場合(スタンフォードA型)は、心臓の破裂や心不全によって数時間以内に命を落とす危険性が極めて高いため、夜間・休日を問わず緊急の開胸手術(人工血管置換術)が必要です。一方、背中からお腹にかけての「下行大動脈」のみに限局している場合(スタンフォードB型)は、基本的には集中治療室での強力な降圧療法(血圧を下げる治療)と絶対安静で管理を行います。近年ではカテーテルを用いたステントグラフト手術を行うケースもあります。
この病気の最大のリスク因子は、動脈硬化と、何と言っても「高血圧」です。予防のためには、日頃から血圧を厳格に管理し、血管への負担を減らし続けることが何より重要です。 もし、突発的な激しい背部痛や胸痛を感じた場合は、一刻を争う事態である可能性があります。ご自身で病院へ向かうのは危険ですので、迷わず119番通報をして救急車を呼び、救急隊に「背中が裂けるように痛い」と伝えてください。
当院ではセカンドオピニオン診療を行っておりません。すでに他の医療機関にて治療中の心疾患について、当院での相談を希望される際にはなるべく紹介状をお持ち頂きますよう、お願い致します。かかりつけの先生からの紹介状を持たず受診をされると、過去の経緯や検査結果などがまったくわからないところから手探りの診察となるため、当院にて正確な診断・治療を行うことは、却って困難になります。また、検査や治療が重複することにより、金銭面のみならず、患者様の身体面でも大きな負担が生じます。さらに健康保険側では、医療費の適正化の取り組みとして重複受診を行っている方の調査を行っており、患者様に個別に連絡が入るケースがあります。ご理解、ご協力のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。