あがり症について

楽器の発表会や、受験・採用の面接、会社の朝礼での挨拶、プレゼンテーションなど・・・、社会生活を営む上で、人は様々な場面において緊張を強いられます。
適度な緊張は集中力を高め、実力を発揮して良い結果を出すために大切な役割を果たしますが、あまりにひどくなれば、その人が持つ能力を正しく他者に評価してもらう上で著しい妨げとなります。性格の問題と捉えられがちで、人に相談することもできず、深い悩みや苦痛を抱え続けている方は決して少なくありません。また、「あがり症」が元となって失敗や挫折の経験を繰り返すと、徐々に自信を喪失して緊張する場面を避けるようになり、能力に見合った活躍の場を失うことにも繋がります。これは、本人や社会にとって非常に大きな損失です。
当院のあがり症診療について
社交不安障害に対する治療には認知行動療法や薬物療法などがあり、このうち薬物療法については、抗うつ薬(SSRI/SNRI)や、抗不安薬(精神安定剤)、β遮断薬などの薬剤が用いられることが一般的です。当院におけるあがり症診療では、β遮断薬であるメトプロロール(セロケン®)という薬剤を用います。β遮断薬は、自律神経の一つである交感神経の働きを抑制する作用を持ち、もともとは高血圧症や狭心症、および頻脈性不整脈の治療のために開発されたものです。
これを、人前で緊張を強いられる場面の1時間前に、1~2錠頓服することにより、精神的緊張から生じる交感神経の過剰な興奮が抑えられ、心悸亢進や手の震え、声の震えやうわずり、一時的な思考力・判断力の低下といった、対外的・社会的な不利益をもたらす諸症状の緩和が期待されます。なお、β遮断薬はいわゆる精神安定剤とは全く作用の異なる薬剤であり、眠くなったり、頭がぼんやりとしてしまうことはありません。また、精神安定剤のような依存や耐性を形成することもありません。
当院のあがり症診療の最終的な目標は、「あがり症」に悩んでいらっしゃる方が、必要最低限の薬で、または薬に全く頼らずとも、満足できる社会生活を送って頂けるようになることです。β遮断薬の力を借りて「あがり症」をコントロールしながら、緊張する場面での成功体験を積み重ねることで、自信を回復して本来の能力を発揮できるようになることを願っています。
項目 |
β遮断薬 |
SSRI/SNRI ※ 当院では処方していません |
分類 |
降圧薬・抗不整脈薬 (本来の用途) |
抗うつ薬 |
主な作用機序 |
交感神経のβ受容体を遮断し、心拍数や震えなどの身体症状を抑える |
脳内のセロトニン濃度を高め、不安を軽減する |
効果発現 |
投与後、30分-1時間程度 |
投与開始から2-4週間程度 |
効果持続時間 |
セロケン®の場合、5,6時間 |
毎日服用することで、効果が持続 |
適応となる症状 |
身体的側面に効果的 (動悸、震え、赤面、発汗など) |
精神的側面に効果的 (不安、緊張、恐怖、予期不安など) |
副作用 |
徐脈、低血圧、めまい、倦怠感など
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嘔気、下痢、頭痛、眠気 性機能障害、セロトニン症候群など
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使用方法 |
パフォーマンスの前(頓用) |
毎日服用 |
禁忌 |
高度徐脈、心不全、肺高血圧症、 低血圧症、褐色細胞腫、妊娠中など |
MAO阻害薬との併用、 躁うつ病の躁状態など |
注意点 |
心不全、糖尿病、末梢循環障害、 高齢者への使用、 長期連用後の突然の中止 |
投与初期の不安増強、自殺企図、 自己中断による離脱症状 |
特徴 |
即効性があり、パフォーマンス時の身体症状の軽減に効果的。頓用での使用が可能。精神機能への作用や依存性がない。
| 不安や恐怖感などの精神症状の改善に効果的だが、効果発現まで時間がかかるため、予防的に内服を継続することが必要。 |
その他 |
精神症状への効果は限定的であり、対症療法としての使用が主。 |
長期的に精神症状を含めた改善を目指す場合に選択肢となる。 |
保険適応 |
なし (保険証が使用できない) |
あり |
薬剤例 |
メトプロロール(セロケン®) プロプラノロール(インデラル®) など
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セルトラリン(ジェイゾロフト®) パロキセチン(パキシル®) エスシタロプラム(レクサプロ®) など
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セロケン®は今から1970年代半ばに開発され、現在まで長らく使用されている薬です。重大な副作用の頻度が少なく、殆どの方にとって安全に内服して頂くことができますが、心疾患(うっ血性心不全、徐脈性不整脈、肺高血圧症、低血圧症)や気管支喘息、閉塞性動脈硬化症等の疾患を合併している場合は、安易に内服することはできません。あがり症のために内服した薬で、思わず病気を悪化させてしまうことがないよう、事前に十分な問診及び評価を行う必要があります。また、、β遮断薬を健康保険を用いて処方できるのは、高血圧症や狭心症、不整脈などの病気の方に限定されています。そのため、当院のあがり症診療は自由診療での取扱とさせて頂いております。
※ プロプラノロール(インデラル®)はセロケン®と比較して禁忌疾患が多いことから、適応外使用における安全性担保の理由により、当院では取り扱っておりません。

当院では、患者様の状態を十分に把握した上で、適切な指導のもとにβ遮断薬の処方を行います。そのため、受診時には1年以内の検診結果の持参をお願い致します。検診結果がお手元にない場合および40歳以上の方は、当院にて検査(心電図、レントゲン、採血等)を実施致しますので、ご了承ください。なお、動悸や手の震えなどを生じる他の疾患(各種不整脈、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、本態性振戦、パーキンソン病など)の疑いがあるときには、適切な精査をお勧めすることがあります。
初回受診時には10回分(20錠)を処方しております。ご自身にとって薬が有効であれば、お手持ちの薬が無くなった際にいつでも再診して頂くことができます。定期的な受診は必要ありません。再診時には30回分(60錠)をお渡ししています。2021-2023年度の実績では、あがり症診療の初診患者様約600名のうち7割弱の方が、1回以上再診されました。
費用等のご案内
診察予約が必要です。インターネットからの予約も可能です。
診察・検査の結果、処方できないと判断した場合、診察・検査料として6,600円(税込み)を頂戴致します。
診察と諸検査、および10回分の薬(院内処方)の費用を含みます |
18歳以上、40歳未満 1年以内の検診結果持参あり
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9,350円(税込み) |
18歳以上、40歳未満 検診結果持参なし
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10,560円(税込み) |
40歳以上、70歳未満
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14,300円(税込み) |
診察と10回分の薬の費用、オンライン診療手数料および薬の送料を含みます |
18歳以上、40歳未満
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9,900円(税込み) |
40歳以上、70歳未満
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初診時は要来院 |
診察と、30回分の薬(院内処方)の費用を含みます |
18歳以上、70歳未満
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4,950円(税込み) |
診察と、30回分の薬の費用、オンライン診療手数料および薬の送料を含みます |
18歳以上、70歳未満
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5,850円(税込み) |